はじめに:なぜこの2つの使い分けが重要なのか?
Godot Engineで開発を始めると、誰もが最初に_processと_physics_processという2つの関数に出会います。しかし、「キャラクターがPCの性能によって速く動いてしまう」「動きがカクカクして見える」「壁をすり抜けることがある」といった問題に直面したことはないでしょうか?
これらの問題のほとんどは、_processと_physics_processの役割を正しく理解せず、不適切な場所で処理を記述していることが原因です。この記事では、Godotのゲームループの心臓部であるこの2つの関数の違いを徹底的に解説します。
_process vs _physics_process: 基本的な違い
2つの関数の最も重要な違いは、「いつ」「どれくらいの頻度で」呼び出されるかにあります。これは、ゲーム開発における「可変タイムステップ」と「固定タイムステップ」という概念に直結しています。
| 特徴 | _process(delta) | _physics_process(delta) |
|---|---|---|
| 呼び出しタイミング | 毎フレーム(描画ごと) | 一定時間ごと(物理計算ごと) |
| タイムステップ | 可変 (Variable Timestep) | 固定 (Fixed Timestep) |
| 呼び出し頻度 | PC性能や負荷に依存(例: 60FPS, 144FPS) | プロジェクト設定に依存(デフォルト: 60回/秒) |
delta引数 | 前フレームからの経過時間(変動する) | 物理ステップ間の時間(固定値) |
| 主な用途 | UI更新、入力取得、視覚効果、非物理アニメーション | 物理演算、衝突判定、時間経過に厳密なロジック |
_process: 画面が更新されるたびに呼ばれるため、見た目に関する処理に向いています。ただし、実行間隔が不安定なので、物理演算のような精密な計算には使えません。_physics_process: フレームレートに関わらず常に一定の間隔で呼ばれるため、物理法則に基づいた動きの再現性(いつ、誰が実行しても同じ結果になること)が保証されます。
よくある間違いとベストプラクティス
理論は分かっても、実践で間違えてしまうことはよくあります。ここでは、具体的な間違いとそれを解決するベストプラクティスを対比形式で見ていきましょう。
| よくある間違い | ベストプラクティス |
|---|---|
物理演算 (move_and_slide) を _process で実行する。→フレームレート依存で挙動が不安定になる。 | 物理演算は必ず _physics_process で実行する。→再現性のある安定した物理挙動が保証される。 |
_process 内で delta を使わずに値を加算する。→PC性能でゲーム速度が変わってしまう。 | _process で時間経過が絡む処理には必ず delta を乗算する。→フレームレートに依存しない均一な速度を実現できる。 |
入力取得 (Input.is_action_pressed) を _physics_process で行う。→入力が欠落し、反応が鈍く感じることがある。 | 入力取得は _process や _input で行い、結果をメンバ変数に保存する。→毎フレーム入力を検知し、滑らかな操作感を実現する。 |
見た目の更新処理(UI、エフェクト)を _physics_process で行う。→描画と同期せず、カクつき(Jitter)の原因になる。 | 見た目に関する処理は _process で行う。→描画フレームと同期し、滑らかな視覚表現が可能になる。 |
実践的なコード例:キャラクター移動
それでは、ベストプラクティスに基づいたキャラクター移動のコードを見てみましょう。入力、物理演算、アニメーションを適切に分離することが鍵です。
extends CharacterBody2D
const SPEED = 300.0
const JUMP_VELOCITY = -400.0
# 物理エンジンによって計算される重力
var gravity = ProjectSettings.get_setting("physics/2d/default_gravity")
var input_direction = Vector2.ZERO
# 1. 入力処理: 毎フレーム実行し、入力を変数に保存
# _input()イベントでも良いが、継続的な入力は_processが直感的
func _process(delta):
# 左右の入力を取得
input_direction.x = Input.get_axis("move_left", "move_right")
# ジャンプ入力(1回だけ押されたことを検知)
if Input.is_action_just_pressed("jump") and is_on_floor():
velocity.y = JUMP_VELOCITY
# 見た目に関する処理(例: アニメーションの更新)
update_animation()
# 2. 物理処理: 固定タイムステップで実行
func _physics_process(delta):
# 重力を適用
if not is_on_floor():
velocity.y += gravity * delta
# 入力方向に基づいて水平速度を決定
velocity.x = input_direction.x * SPEED
# 物理演算を実行
move_and_slide()
func update_animation():
# ここにアニメーションツリーの更新など、見た目に関するコードを記述
pass
このコードでは、_processが滑らかな入力検知とアニメーション更新を担当し、_physics_processが安定した物理計算(重力、移動)に専念しています。これにより、どんな環境でも一貫性のある快適な操作が実現します。
パフォーマンスと高度なトピック
物理補間(Physics Interpolation)で動きを滑らかに
物理演算は60回/秒、描画は144回/秒といったように、実行頻度に差があると、オブジェクトの動きがカクついて見える「ジッター」現象が発生します。これを解決するのが物理補間です。
この機能を有効にすると、エンジンが物理ステップ間の位置を自動的に補間し、描画フレームで滑らかに表示してくれます。
- 有効化:
プロジェクト設定 > Physics > Common > Physics Interpolationをオンにする。
特にカメラがキャラクターを追従するようなゲームでは、この設定は必須と言えるでしょう。
_input() vs _process()での入力
入力処理は_process()内でInput.get_axis()などを使う方法の他に、_input(event)コールバックを使う方法もあります。
_input(event): マウスのクリックやキーの押下など、イベントが発生した瞬間に呼ばれます。単発のアクション(例: インベントリを開く、射撃する)に適しています。_process(): 継続的な状態をチェックするのに向いています。is_action_pressed()で「キーが押され続けている」状態を確認する移動処理などはこちらが直感的です。
どちらも有効ですが、役割に応じて使い分けることで、より意図が明確なコードになります。
まとめと次のステップ
_processと_physics_processの適切な使い分けは、Godot開発における最初の、そして最も重要なステップの一つです。常に「この処理は物理的な再現性が必要か、それとも見た目の滑らかさが必要か?」を自問自答する癖をつけましょう。
この記事で基本をマスターしたあなたが次に取り組むべきトピックは以下の通りです。
- シグナル: ノード間の連携を疎結合に保つための強力なシステムです。
AnimationTree: 複数のアニメーションをブレンドし、複雑なキャラクターステートを管理します。- カスタムリソース: 武器のデータやキャラクターのステータスなど、再利用可能なデータセットを作成します。
これらの概念を学ぶことで、あなたのGodotプロジェクトはさらにスケーラブルで管理しやすいものになるでしょう。