【Unreal Engine】Blueprintでよくある10のミスとその解決策

作成: 2025-12-12

Tickイベントの多用、Castノードの乱用、Get All Actors Of Classの頻繁な呼び出しなど、Blueprint開発でありがちなミスとその対処法をまとめ。

Blueprintの落とし穴

Unreal Engine (UE) のBlueprint は、プログラミングの知識がなくてもゲームロジックを視覚的に構築できる強力なツールです。しかし、その手軽さゆえに、知らず知らずのうちにパフォーマンスのボトルネック管理性の低い「スパゲッティ・コード」 を生み出してしまうことがあります。

本記事は、Unreal Engineの学習を始めたばかりの初心者から、よりクリーンで効率的なBlueprintコードを目指す中級者の方々を対象としています。Blueprintで陥りがちな 「よくある10のミス」 を具体的な解決策(ベストプラクティス)とともに解説し、あなたのプロジェクトをより快適で高速なものにするための指針を提供します。

Blueprintでよくある10のミスとその解決策

ここでは、多くの開発者が経験するBlueprintのミスと、それを回避するためのベストプラクティスを紹介します。

ミス1: Tickイベントの多用

問題点: Event Tickは毎フレーム実行されるため、少しでも重い処理をTick内に記述すると、フレームレートが低下し、ゲーム全体のパフォーマンスに深刻な影響を与えます。特に、常に必要ではないチェック複雑な計算 をTickで行うのは典型的なミスです。

解決策(ベストプラクティス):

  1. タイマーの使用: 一定間隔で実行したい処理は、Set Timer by EventまたはSet Timer by Function Nameノードを使用して実行します。
  2. イベント駆動: 処理が必要になった時だけ実行されるように、イベントディスパッチャーインターフェースカスタムイベント を活用し、ポーリング(常時監視) を避けます。
  3. C++への移行: どうしても毎フレーム実行する必要がある、かつパフォーマンスが重要な処理は、C++で実装することを検討します。

ミス2: Castノードの不適切な多用

問題点: Cast Toノードは、あるオブジェクトが特定のクラスであるかを確認し、そのクラス固有の機能にアクセスするために使われます。Cast処理自体のCPU負荷(ポインタ比較)は非常に軽量 ですが、本当の問題はハードリファレンス(Hard Reference)の発生 にあります。Cast先のBlueprintクラスが参照されることで、そのクラスが依存するすべてのアセット(メッシュ、テクスチャ、アニメーションなど)がメモリにロードされ、起動時間の増加やメモリ使用量の肥大化 を招きます。

解決策(ベストプラクティス):

  1. Blueprint Interfaceの活用: オブジェクトの具体的なクラスを知る代わりに、インターフェース を介して関数を呼び出します。インターフェースはHard Referenceを発生させず、依存関係を疎結合に保てます。
  2. イベントディスパッチャー: 特定のイベントが発生したことを通知するだけで、誰がそのイベントを受け取るかを気にしない設計にします。
  3. 親クラスへの参照: 共通の機能は親クラスに実装し、子クラスでは親クラスの参照のみを保持するようにします。
  4. Soft Reference: どうしてもクラス参照が必要な場合は、Soft Object Reference を使用して非同期にロードすることで、起動時の負荷を軽減できます。

ミス3: 複雑な処理を1つのグラフにまとめる(スパゲッティ・ノード)

問題点: 一つのイベントや関数の中に、数十、数百ものノードが繋がり、グラフが巨大化してしまうと、可読性が著しく低下 し、デバッグや機能追加が困難になります。これは「スパゲッティ・ノード」と呼ばれます。

解決策(ベストプラクティス):

  1. Function/Macroへの分割: 処理のまとまりごとにFunctionMacro に分割します。特に再利用したいロジックはMacroやFunction Libraryにまとめます。
  2. Collapse Graph: 視覚的にノードのグループをまとめるためにCollapse Graphを使用します。これは整理のためであり、Function/Macroへの分割がより推奨されます。
  3. コメントとRerouteノード: 処理の意図を明確にするためにコメントを付け、ワイヤーの視認性を高めるためにReroute Node(リルートノード)を積極的に使用します。

ミス4: 変数の初期化忘れとNull参照のチェック不足

問題点: オブジェクト参照型の変数を設定せずに使用しようとすると、ゲームがクラッシュしたり、予期せぬ動作を引き起こしたりします。特に、BeginPlayで取得した参照が、後続の処理で有効であるかを確認せずに使用するのは危険です。

解決策(ベストプラクティス):

  1. IsValidノードの使用: オブジェクト参照を使用する直前に、必ずIsValidノード(またはIs Validマクロ)を使用して、参照が有効であるかを確認します。
  2. BeginPlayでの初期化: 必要な参照は、ゲーム開始時(Event BeginPlay)に確実に取得し、初期化します。
  3. 変数のデフォルト値: 可能な限り、変数のデフォルト値を設定しておきます。

ミス5: 頻繁なGet All Actors Of Classの使用

問題点: Get All Actors Of Classノードは、ワールド内の** すべての** 指定されたクラスのアクターを検索します。これは非常に負荷の高い処理であり、Tickイベント内や頻繁に実行される処理内で使用すると、パフォーマンスが大幅に低下します。

解決策(ベストプラクティス):

  1. 参照の保持: 必要なアクターは、ゲーム開始時やスポーン時に一度だけ取得し、変数に参照を保持 します。
  2. タグやインターフェースの利用: 特定のアクターを見つけたい場合は、Get All Actors With Tagや、より効率的なGameplay Tag システム、またはインターフェースを活用します。
  3. コンポーネントの利用: アクター全体ではなく、特定のコンポーネントにアクセスすることで、検索範囲を絞り込みます。

ミス6: PureノードとImpureノードの理解不足

問題点: Blueprintノードには、実行ピン(白い矢印)を持つImpure(不純)ノード と、実行ピンを持たないPure(純粋)ノード があります。Pureノードは、出力ピンが参照されるたびに再計算 されます。この性質を理解せずに、複雑な計算を行うPureノードを複数回参照すると、意図せず処理が重複し、パフォーマンスを浪費します。

解決策(ベストプラクティス):

  1. Impureノードへの変換: 複雑な計算を行うPureノードの結果は、一度変数に格納するか、実行ピンを持つFunctionに変換して、一度だけ計算 されるようにします。
  2. Pureノードの適切な利用: Pureノードは、Getノードや単純な数学演算など、副作用がなく、計算コストが非常に低い処理に限定して使用します。

ミス7: 適切なコメントと整理を怠る

問題点: Blueprintは視覚的であるため、コメントや整理を怠ると、数週間後に自分自身でさえ理解できない「暗号」と化します。特にチーム開発では、他の開発者があなたのロジックを理解できず、作業が停滞します。

解決策(ベストプラクティス):

  1. コメントボックス: 処理のまとまりごとにComment Box(コメントボックス)で囲み、その処理の目的を明確に記述します。
  2. 変数・関数名の命名規則: 変数や関数には、その役割が明確にわかるような一貫した命名規則 (例: BPI_ for Interface, Func_ for Function)を適用します。
  3. ノードの整列: ノードをきれいに整列し、ワイヤーが交差するのを最小限に抑えます。

ミス8: 参照をローカル変数に格納しない

問題点: 複雑なグラフ内で、同じオブジェクト参照(例: プレイヤーキャラクターの参照)を何度も取得しようとすると、グラフがワイヤーだらけになり、可読性が低下します。

解決策(ベストプラクティス):

  1. ローカル変数の活用: FunctionやMacro内で一時的に使用する参照や計算結果は、ローカル変数 に格納します。これにより、ワイヤーの数を減らし、グラフを整理できます。
  2. プロパティとしての参照: アクター全体で頻繁に使用する参照は、通常の変数として格納し、BeginPlayなどで一度だけ設定します。

ミス9: 物理演算の不適切な使用

問題点: Blueprintで物理演算(Add ForceSet Physics Linear Velocityなど)を毎フレーム実行すると、Tickイベントと同様にパフォーマンスに影響を与えます。また、物理演算はデバッグが難しく、意図しない挙動を引き起こしやすいです。

解決策(ベストプラクティス):

  1. Character Movement Componentの利用: プレイヤーキャラクターの移動には、カスタムの物理演算ではなく、最適化されたCharacter Movement Component を使用します。
  2. 必要な時のみ実行: 物理演算の操作は、イベントが発生した時や、特定の状態にある時のみに限定し、Tickでの常時実行を避けます。

ミス10: イベントディスパッチャーのバインド解除忘れ

問題点: Event Dispatcher(イベントディスパッチャー)は、疎結合な通信に非常に有用ですが、イベントにバインド(登録)したまま、そのアクターが破棄されると、メモリリーククラッシュ の原因となることがあります。

解決策(ベストプラクティス):

  1. Unbind Eventの実行: イベントにバインドしたアクターが破棄される際(例: Event EndPlay)には、必ずUnbind Eventノードを使用して、バインドを解除します。
  2. Bind Event to ...の適切な場所: バインドは、アクターのライフサイクルの中で一度だけ、適切なタイミング(通常はEvent BeginPlay)で行います。

ミス回避のポイント

Blueprintは、Unreal Engine開発の強力な基盤ですが、その力を最大限に引き出すには、「クリーンさ」「効率性」「疎結合性」 を意識したコーディングが不可欠です。

ミス解決策(ベストプラクティス)目的
Tickイベントの多用タイマー、イベント駆動に切り替えるパフォーマンス向上
Castノードの多用インターフェース、イベントディスパッチャーを利用する疎結合な設計、柔軟性向上
スパゲッティ・ノードFunction/Macro、Collapse Graphで処理を分割する可読性、管理性向上
Null参照チェック不足IsValidノードで必ずチェックする安定性、クラッシュ防止
Get All Actors Of Classの頻繁な使用参照を保持、タグやGameplay Tagを利用するパフォーマンス向上

これらのベストプラクティスを実践することで、あなたのBlueprintはより高速に、より管理しやすく進化するでしょう。より高度なロジックやパフォーマンスが求められる場合は、BlueprintとC++の適切な使い分けを検討してください。