Unreal Engine(UE)でのゲーム開発において、Blueprintは非常に強力なツールです。コードを書かずに視覚的にロジックを構築できるため、初心者でも直感的に開発を進められます。しかし、プロジェクトが大規模になるにつれて、Blueprintのグラフが複雑化し、「スパゲッティコード」と呼ばれる状態に陥ってしまうことは少なくありません。
ノードが絡み合い、接続線が画面を縦横無尽に走り、数ヶ月前の自分自身が書いたロジックすら理解できない...。そんな経験はありませんか?
本記事では、Unreal Engine初心者から中級者の方を対象に、Blueprintの可読性を劇的に向上させ、将来の自分やチームメンバーがスムーズに作業できる環境を作るための実践的な整理・可読性向上テクニック を徹底的に解説します。
スパゲッティコードの原因
Blueprintがスパゲッティコードになりやすい主な原因は、その自由度の高さにあります。
- 実行ピンの接続が自由すぎる: どこからでもノードを接続できるため、処理の流れがすぐに複雑な網目状になってしまいます。
- 安易なコピペによる重複: 似たような処理を関数化せずにコピペすることで、修正が必要な箇所が複数に増え、管理が困難になります。
- 大規模化への対応不足: 小さなロジックの積み重ねで始まったグラフが、機能追加のたびに肥大化し、一つのイベントグラフ に全てが詰め込まれてしまいます。
これらの問題を解決するには、C++のプログラミングにおける「関数」「クラス」「命名規則」といった概念をBlueprintにも適用し、意識的に整理することが重要です。
ロジック整理の基本テクニック
2.1. 関数化とマクロの活用(再利用性の向上)
最も重要な整理術は、ロジックを適切な単位で分割し、再利用可能にすることです。
| 分割方法 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 関数 (Function) | 純粋な処理、戻り値が必要なロジック、再利用性の高い処理 | 実行ピンがない「純粋関数」も作成可能。ローカル変数が使える。 |
| マクロ (Macro) | 複雑なフロー制御、実行ピンを伴うノードのグループ化 | 実行ピンを持つ。入力/出力ピンを自由に定義でき、ノードのテンプレートとして機能する。 |
ベストプラクティス:
- 関数: 「プレイヤーのHPを計算する」「特定のアイテムを検索する」など、結果を返す ロジックや、実行ピンを必要としない ロジックに使用します。
- マクロ:
DoOnceやBranchなど、実行フローを制御する ノードを複数含み、それを一つのブロックとしてまとめたい場合に使用します。
2.2. コメントボックスとノードのグループ化
視覚的な整理は、ロジックの理解を助けます。
- コメントボックス: 関連す るノード群を囲み、その処理の目的 を明確に記述します。単に「ダメージ処理」ではなく、「敵の攻撃力と防御力を考慮した最終ダメージ計算」のように、具体的な目的を書くことが重要です
- ノードの整列機能: ノードを選択し、右クリック→「Alignment」メニューから整列方法を選択します。また、
Shift+W(上揃え)、Shift+S(下揃え)、Shift+A(左揃え)、Shift+D(右揃え)のショートカットキーも利用できます。これを習慣化するだけで、グラフの見た目は劇的に改善します。
2.3. 変数の命名規則の徹底
変数の命名は、その変数が何を表しているかを一目で理解するために不可欠です。
命名規則の一例(ハンガリアン記法に近いスタイル):
| 変数の型 | 接頭辞 | 例 |
|---|---|---|
| Boolean (真偽値) | b | bIsJumping, bCanAttack |
| Integer (整数) | i | iMaxAmmo, iScore |
| Float (浮動小数点数) | f | fMovementSpeed, fCurrentHealth |
| Vector (ベクトル) | v | vTargetLocation, vSpawnDirection |
| String (文字列) | s | sPlayerName, sDebugMessage |
💡 命名規則について
上記はあくまで 一例です。Epic Gamesの公式コーディング規約では、Booleanの
bプレフィックスのみが推奨されており、他の型に接頭辞を付けることは必須ではありません。最も重要なのは、チーム内で命名規則を統一し、一貫性を保つこと です。どの規則を採用するかよりも、プロジェクト全体で同じルールを守ることが可読性向上に繋がります。
ノード配置と接続の整理
接続線(ワイヤー)の整理は、スパゲッティコード対策の核心です。
3.1. Rerouteノード(リルートノード)の活用
Rerouteノードは、接続線を曲げたり、分岐させたりする際に非常に役立ちます。
- 接続線の交差を減らす: 複雑なデータ線が他のノードや実行ピンと交差するのを防ぎます。
- 視覚的な整理:
Ctrlキーを押しながらワイヤーをダブルクリックすることで簡単に作成できます。これにより、ワイヤーを直線的に保ち、グラフ全体をすっきりさせることができます。
3.2. 一方向の流れを意識する
ロジックの流れは、常に左から右、そして上から下 の一方向に保つようにします。
- 実行ピン: 左から右へ流れるように配置します。
- データピン: データが左側のノードから右側のノードへ流れるように配置します。
これにより、初めてグラフを見る人でも、視線の移動がスム ーズになり、処理の開始から終了までを容易に追跡できます。
3.3. ローカル変数の活用
一時的な計算結果や、複数のノードで参照されるが、外部に公開する必要のない値は、ローカル変数 として関数やマクロ内で宣言します。
- メリット: グラフの入力ピンや出力ピンを減らし、接続線をシンプルに保てます。また、変数のスコープが限定されるため、意図しない場所での値の変更を防げます。
よくある間違いと改善例
| よくある間違い | 改善のためのテクニック |
|---|---|
| 巨大なイベントグラフ | Event TickやEvent BeginPlayに全てのロジックを詰め込む。 |
| ワイヤーの交差 | 接続線がノードの上を縦横無尽に走り、処理の流れが見えない。 |
| 不適切な変数名 | Temp1, A, NewVarなど、意味不明な変数名を使う。 |
| マジックナンバー | 3.14159や500.0などの定数を直接ノードに入力する。 |
整理の3つのポイント
Blueprintのスパゲッティコードを防ぐための鍵は、「分割」「命名」「視覚的整理」 の3点に集約されます。
- 分割: 関数とマクロを使い分け、ロジックを再利用可能な小さな単位に分割する。
- 命名: 適切な命名規則(特に接頭辞)を用いて、変数や関数の役割を明確にする。
- 視覚的整理: コメントボックス、ノードの整列、Rerouteノードを活用し、処理の流れを左から右の一方向に保つ。
これらのテクニックを意識して日々の開発に取り組むことで、あなたのBlueprintグラフは劇的に読みやすく、メンテナンスしやすいものに変わるでしょう。高品質なコードは、開発速度とチームの生産性を向上させる最も確実な方法です。