概要
ワールドの魅力的なコンテンツも、フレームレート(FPS)が低くカクカクの環境ではプレイヤーに楽しんでもらえません。特にVRChatでは、アバターや他のプレイヤーの存在自体が負荷となるため、ワールド制作者は常にパフォーマンスを意識した設計を心がける必要があります。
UdonSharpにおけるパフォーマンス最適化は、単にコードを綺麗に書くこと以上の意味を持ちます。CPU負荷とネットワーク負荷の両方を考慮し、VRChatの特性に 合わせたアプローチが求められます。
本記事では、基本的な最適化の考え方から、オブジェクトプーリングやネットワーク負荷軽減といった高度なテクニックまで、快適なワールドを実現するための具体的な手法を解説します。
1. Update()からの脱却: イベント駆動設計
UdonSharp(およびUnity)開発における最も重要で基本的な最適化は、Update()メソッドの使用を可能な限り避けることです。
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問題点:
Update()は毎フレーム実行されます。たとえ数行のコードでも、シーン内の多数のオブジェクトで毎フレーム実行されれば、CPU負荷はあっという間に増大します。特に、プレイヤー数が増えるとその影響は深刻になります。 -
解決策: イベント駆動の考え方に切り替えます。「常に監視する」のではなく、「何かが起きた時だけ処理する」ように設計します。
| やりたいこと | Updateでの悪い例 | イベント駆動での良い例 |
|---|---|---|
| ボタンが押されたか | if (Input.GetKeyDown(KeyCode.E)) { ... } | public override void Interact() { ... } |
| プレイヤーがエリア内か | if (Vector3.Distance(...) < 5) { ... } | public override void OnPlayerTriggerEnter(...) |
| 体力が0になったか | if (health <= 0) { Respawn(); } | ダメージを受けた瞬間にif (health <= 0)をチェックする |
Update()が必要な場合(例: オブジェクトを動かし続ける)でも、その処理は一つのマネージャーオブジェクトに集約し、シーン内にUpdate()を持つUdonSharpBehaviourの数を最小限に抑えるべきです。
2. オブジェクトプーリング: 生成と破棄のコストをなくす
銃の弾、パーティクル、敵キャラクターなど、短時間にオブジェクトの生成(Instantiate)と破棄(Destroy)を繰り返す処理は、CPUに大きなスパイク(瞬間的な高負荷)を発生させます。これを解決するのがオブジェクトプーリングです。
このトピックについては、詳細な解説記事「ギミック制作編8: オブジェクトプール (VRChat SDK)」で既に説明しました。VRCObjectPoolコンポーネントを活用し、高負荷なInstantiate/Destroyを、低コストなSetActive(true)/SetActive(false)に置き換えることが重要です。
3. ネットワーク負荷の軽減
UdonSharpの同期処理は便利ですが、使い方を誤るとネットワーク帯域 を圧迫し、インスタンス全体の動作を不安定にします。
同期変数の更新は慎重に
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問題点:
[UdonSynced]変数をUpdate()内で毎フレーム変更し、RequestSerialization()を呼び出すのは最悪のパターンです。これにより、そのオブジェクトの全同期データが毎フレーム、全プレイヤーに送信され、膨大なネットワークトラフィックが発生します。 -
解決策: 値が実際に変化した時だけ、
RequestSerialization()を呼び出すようにします。
// 悪い例
private int _score;
public int Score
{
set
{
_score = value;
RequestSerialization(); // 値が変わってなくても毎回送信してしまう
}
get => _score;
}
// 良い例
private int _score;
public int Score
{
set
{
if (_score == value) return; // 値が変化していなければ何もしない
_score = value;
RequestSerialization();
}
get => _score;
}
BehaviourSyncModeの選択
Udon BehaviourコンポーネントのBehaviour Sync Modeは、同期の頻度を決定します。
Continuous: 変数が変更されると自動的に同期を試みます。手軽ですが、意図しない頻繁な同期が発生する可能性があります。Update内で同期変数を変更する場合、このモードは非常に危険です。Manual:RequestSerialization()が呼び出された時だけ同期します。いつデータが送信されるかを完全に制御できるため、パフォーマンスを意識するならManualが推奨されます。
4. その他の最適化テクニック
- GetComponentのキャッシュ:
Update()内でGetComponent<T>()を呼び出すのは高負荷です。Start()やAwake()の時点で必要なコンポーネントを一度だけ取得し、変数に保持(キャッシュ)しておきます。
// 悪い例
void Update()
{
GetComponent<Rigidbody>().AddForce(Vector3.up);
}
// 良い例
private Rigidbody rb;
void Start()
{
rb = GetComponent<Rigidbody>();
}
void Update()
{
rb.AddForce(Vector3.up);
}
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遅延イベントの活用: UdonSharpではコルーチンは使用できませんが、代わりに
SendCustomEventDelayedSeconds("メソッド名", 秒数)やSendCustomEventDelayedFrames("メソッド名", フレーム数)を使用することで、一定時間後や一定フレーム後に処理を実行できます。これにより、Updateでフラグをチェックし続ける必要がなくなります。 -
距離による処理の無効化: プレイヤーから遠く離れているギミックは、動作させる必要がないかもしれません。
VRCPlayerApi.GetPosition()でプレイヤーの位置を取得し、ギミックとの距離を計算して、一定距離以上離れていれば処理をスキップすることで、負荷を軽減できます。
まとめ
- パフォーマンス最適化は、CPU負荷とネットワーク負荷の両面から考える必要があります。
Update()の使用を避け、イベント駆動で設計することが、最も基本的かつ効果的なCPU負荷対策です。- オブジェクトの頻繁な生成/破棄にはオブジェクトプーリングを導入します。
- ネットワーク負荷を抑えるため、同期変数の更新は値が変化した時だけ行い、
Behaviour Sync ModeはManualを選択するのが安全です。 GetComponentのキャッシュや、遅延イベント(SendCustomEventDelayedSeconds)の活用など、地道な改善の積み重ねがワールド全体の快適性に繋がります。
最適化は、ワールド制作の最後に行うものではなく、設計段階から常に意識すべき重要な要素です。これらのテクニックを駆使して、誰にとっても快適で楽しいVRChat体験を創造しましょう。